「噛む犬」は性格のせい?——叱る前に確認したい3つのこと
触ろうとすると唸る。手を出すと噛もうとする。ブラッシングや足拭きのときだけ、人が変わったように怒る。
「うちの子は気が強くて」「しつけが甘かったのかも」と、ご自分を責めてしまう飼い主さんは少なくありません。でも、犬が噛むのは性格が悪いからでも、飼い主さんが失敗したからでもないことがほとんどです。
噛むのは、犬にとって「最後の手段」。そこに至るまでには、必ず理由と前触れがあります。
目次
- 噛むのは「最後の手段」
- 確認したいこと①:痛みや体の不調
- 確認したいこと②:いつ、どんな場面で噛むのか
- 確認したいこと③:叱って止めようとしていないか
- 今日からできること
- 行動診療でやること
- まとめ
噛むのは「最後の手段」
犬は、噛む前にいくつものサインを出しています。
- 体が固まる、動きが止まる
- 目をそらす、白目が見える
- 口のまわりをなめる、あくびをする
- 唸る
- 歯を見せる
これらは「やめて」「怖い」「痛い」という犬からの伝言です。それでも伝わらなかったときに、噛むという最後の手段に出ます。
診察室でよく聞かれるのが「急に噛んだんです」という言葉です。けれど、くわしく伺っていくと、前触れがあったというケースがほとんどです。人のほうが、そのサインを見慣れていないだけ、ということも多いのです。
【ポイント】 唸る・噛むといった行動の背景には、恐怖や痛みがあることが多いとされています。「気が強い」「なめられている」という見方をすると、本当の理由を見落としやすくなります。
確認したいこと①:痛みや体の不調
まず疑いたいのは、体のどこかが痛い、具合が悪いという可能性です。
次のような場合は、特に注意が必要です。
- 特定の場所を触ると噛む(足、腰、耳、口のまわりなど)
- 高齢になってから、噛むようになった
- 今まで平気だったことで、急に怒るようになった
関節の痛み、歯や口の中のトラブル、耳や皮膚の炎症、お腹の不調。触られること自体が「痛みにつながる」と犬が覚えてしまうと、触られる前から身構えるようになります。
痛みがあるときの犬は、気持ちに余裕がなく、警告のサインも少なくなりやすいとされています。そのため「前触れなく噛んだ」ように見えてしまうのです。
行動の相談であっても、最初に体の病気がないかを確認するのが基本です。ここは、獣医師が診る意味のいちばん大きい部分です。
確認したいこと②:いつ、どんな場面で噛むのか
噛む場面が違えば、原因も、対応も変わります。思い当たるものを探してみてください。
- 触られるとき(ブラッシング、足拭き、抱っこ、首輪をつけるとき)
- 食べ物やおもちゃを取られそうなとき
- 来客や、散歩中の人・他の犬に出会ったとき
- 怖いものに追い詰められたとき
- 興奮しているとき(遊びが激しくなったとき)
「いつ・どこで・何をしたとき・直前に何があったか」をメモしておくと、原因を見つける大きな手がかりになります。可能であれば、スマホで動画を撮っておくのもおすすめです。ただし、撮影のために無理に近づく必要はありません。
確認したいこと③:叱って止めようとしていないか
唸ったときに叱ると、犬は唸ることをやめることがあります。一見うまくいったように見えますが、嫌だという気持ちが消えたわけではありません。
警告を出す手段をなくした犬は、警告なしで、いきなり噛むようになることがあります。「前触れがなくなって、かえって危なくなった」というのは、よく聞くお話です。
叩く、怒鳴る、押さえつけるといった方法は、恐怖や不安を強め、かえって攻撃的な行動を増やすおそれがあるとして、米国獣医行動学会(AVSAB)も推奨していません。
唸ったときは、叱らずに、そっと離れる。それだけで、事態が悪くならずに済む場面は少なくありません。
今日からできること
原因の整理には時間がかかります。その前に、まず安全を確保しましょう。
- 噛まれやすい場面(触る・近づく・取り上げる)を、当面は作らない
- 「慣れさせよう」と無理に触り続けない
- 小さなお子さんや来客は、犬に近づけない
- 唸ったときは叱らず、静かに距離をとる
- 噛んだ場面を、メモか動画で記録しておく
もし人がケガをした場合は、まずご自身の手当てと受診を優先してください。
行動診療でやること
行動診療は、しつけ教室や訓練とは違い、獣医師が診察として行うものです。
- 体の状態を確認する(痛みや病気が隠れていないか)
- 行動の原因を評価する(どんな場面で、何が引き金になるのか)
- ご家庭で無理なく続けられる環境の調整と、接し方をご提案する
- 必要に応じて、獣医師の判断でお薬を併用する
おおたはら動物診療所では、ご自宅に伺って診察します。普段の環境や、噛んでしまう場面そのものを見ながらご相談できるのが、訪問ならではの良さです。
くわしくは、行動診療のページをご覧ください。「ひとりにすると鳴き止まない」といったお悩みについては、分離不安のコラムでも書いています。
まとめ
噛むのは、犬からのSOSです。叱る前に、次の3つを思い出してください。
- 痛みや体の不調はないか
- いつ、どんな場面で噛むのか
- 叱って止めようとしていないか
「うちの子のこの行動、相談していいのかな」と迷ったら、一人で抱え込む前に、一度ご相談ください。
